特例事業承継税制の概要
こんにちは、昭島市の税理士・大林央です。
平成30年度の税制改正において、現行の事業承継税制を改良して、対象株式数を100%、相続時の評価額を100%に拡大し、雇用確保要件の実質撤廃などを盛り込んだ「特例事業承継税制」が創設されました。その概要をサクッとまとめてみます。
★後継者に無税で事業承継できる
例えば6億円の非上場株式を相続時精算課税で贈与した場合、(6億円―2500万円)×20%=1億1500万円の納税が必要となりますが、この全額が納税猶予されます(免除ではないので注意)。贈与者が亡くなった時点で、当該贈与税は免除され、相続税の課税財産に取り込まれますが、一定の要件を満たすことで、今度はその株式に係る相続税が納税猶予されます。
「特例事業承継税制」は、推定相続人等以外に対しても相続時精算課税による贈与が可能ですが、親族外の後継者に相続時精算課税で贈与した場合でも、その非上場株式の評価額は贈与した時点の時価で相続税の課税価額に含まれてくるので注意が必要です。かなり昔に他人に贈与した株式の評価額が、事業に関係のない相続人の相続税額にも影響を及ぼすということです。
★適用を受けるための贈与から相続までの流れ
1.「承継計画」を都道府県に提出する ※この提出が大前提の必須条件
H30年4月1日からH35年3月31日までに認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成した「承継計画」を都道府県に提出した場合に限り、特例事業承継税制が使えます。提出しなければ新税制は適用できませんが、提出したからと言って、必ず相続贈与をしなければならない訳ではないので、事業承継を控えた顧問先様についてはとりあえず提出してしまうというのも一つの手といえます。
2.「承継計画」の提出前に先代経営者が死亡した場合
「承継計画」の提出前に相続が開始してしまった場合、または、贈与した後に「承継計画」を提出した場合であっても、平成35年3月31日までに「承継計画」を提出すれば、特例承継事業承継税制の適用を受けることはできます。
3.適用を受ける為には一定の要件を満たす必要がある
【会社の要件】
①中小企業であること
②風俗営業をしていないこと
③資産管理会社でないこと
【先代経営者の要件】
①会社の代表者であったこと
※贈与の場合には、贈与までに代表権を返上しないとだめです。相続の場合は直前に代表者であってもなくてもよい
②「代表者であった時点」と「贈与相続があった時点」のいずれの時点でも「同族関係者で発行済議決権株式総数の過半数の議決権を有し、かつ、同族関係者間で筆頭株主」でなければなりません
※外部資本が筆頭株主であっても、同族内で筆頭株主であれば大丈夫です
【後継者の要件】
(贈与の場合)
①20歳以上で、かつ、役員に就任してから3年以上経過
②贈与時点で代表権を有していること
③同族関係者と合わせて発行済議決権株式総数の過半数を保有し、かつ、その同族関係者の中に保有株式数の上位者がいないこと
④贈与の時から認定申請日までに引き続き贈与により取得した特例認定贈与承継会社の株式のすべてを保有していること
本税制は円滑な事業承継の実現のために、現行の事業承継税制の使い勝手を大幅に改良しました。便利ではありますが、税制の適用には、スケジュールの管理が面倒すぎるというのが印象です。慎重にも慎重を重ねて管理していかないと思わぬところで認定取り消し事由(報告・届出を怠ったとき)に該当しかねません。
打ち切り確定となれば2か月以内に納税が必要となります。事例によっては数千万円の納税になることも珍しくない訳で、この管理を第3者に任せる(例えば会計事務所)場合、会計事務所側もリスクを負うわけであり、管理に係る手数料もある程度高額にせざるを得ないでしょう。納税は猶予であって免除ではないのだから当然ではありますが、簡単に発動できない(なるべくしたくない)税制かもしれません。顧問先様の事情(現状だけでなく未来も)をよく話し合って考えていかなければなりません。